特別なスーパードライ

アサヒスーパードライの写真

(母)「父さんががんになったの。」

(私)「え……?はぁ!?どゆこと?」

突然スマホが鳴って母からの着信だと分かった時、普段電話なんてよこさないから嫌な予感がしたけど、電話に出てそんなことを言われたから、青天の霹靂とはまさにこのことで。

がんは2人に1人がなるといわれるほど、いわば日本人の国民病ともいえるけれど、まさか自分の親ががんになるとは思ってもいませんでした。

話を聞くと既に手術は終えていて、今は問題ないとのこと。「でも、お腹の手術したところに白い何かがあって(胃がんだった)、それが何なのか検査してるところなの」と母から聞いて不安な気持ちでいっぱいなところに父からも連絡があり、「東京出張があるから一緒に飯でも食うか」と提案してくれたので、二つ返事で会うことに。

父が馴染みの寿司屋で数か月ぶりの再会でしたが、食事面の制限が大きいから5kgくらい痩せたと聞いていたとおり、顔やお腹まわりもシュッとしていて、事実に他ならないのに僕は「あっ、本当に病気してたんだ。」と思ってしまいました。

「ドクターストップで2か月ぐらい禁酒してんのよ」と話す父の口調は本当に残念そうで、そもそも父は「酒豪」という言葉が似合うくらいお酒にめっぽう強く、悪さはしない良いタイプの酒飲みなんです。

「俺は飲めないから代わりにお前がたくさん飲め」と言うので、それなら遠慮なくと何杯か飲み進めていた頃に、ボソッと父が「はぁ…羨ましいな」と一言。

僕の手に握られたグラスに入っているのは、アサヒのスーパードライ。そこで思い出しました。父は大のスーパードライ好きであることを。

僕は「検査結果が良くて何もなければまた飲めるよ」と励ましたけれど、父は少し物足りなさそうに寿司をつまんでいました。

それからすぐ僕は夏休みを利用して実家に帰省したのですが、ちょうどそのタイミングで検査結果が分かると言っていたから、僕は病院から帰ってきた父に「どうだった?」と聞くと、父は「うん、何もないんだって」と答えてくれたので安堵の気持ちとともに、つまり今日から飲めるのかと考えました。

(私)「じゃあ今日は飲むの?」

(父)「飲みたい」

と短く一言。とはいえ禁酒生活が長かったせいか冷蔵庫にはビールが1本もなく、僕はスーパーへと向かいました。
スーパーのお酒売り場にはたくさんのお酒が並んでいるけれど、寿司屋のできごとを思い出した僕は迷わずスーパードライの350ml缶×6本のパックを手にしてレジに。

そんなこんなで夕食の時間になり、僕は冷蔵庫で冷やしたビールを2本取り、1本を父に。
カシュッという音とともに、ゆっくりと飲み干していく父。

「プッッハァァーーーー」と息を吐く父の顔はとても満足そうで、表情からはいかにこの瞬間を待ち望んでいたかが分かるくらいでした。それはそうです。あれだけお酒好きだった父がドクターストップで禁酒となり、それをきちんと守っていたのですから。

待ち望んだスーパードライを父はどんな気持ちで味わっていたのでしょう。そんなこと本人に聞いても教えてくれるわけもなく、ただただ言えるのはあんなにおいしそうにビールを飲む父の姿を初めて見たということ。

僕にとっても、その日のスーパードライはいつもよりも格別においしく感じて、それは大げさでも何でもありませんでした。

父は調子に乗らずに1本で止めてましたが、僕は早くも2本目を手に。それは父に何もなくて本当に良かったという僕なりの照れ隠し。

これからも親子酒を楽しめることに喜びを感じつつ、そそくさと缶に口をつけていつも通りを装う僕でした。

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