心からおいしいと思えるコーヒーを飲んだあの日のこと

いつも通う富山のコーヒー屋さんの店内写真

小学生や中学生の頃は、両親が飲む缶コーヒーやネスカフェ、ドリップバッグでコーヒーを淹れる姿を見ていたから、コーヒーがある生活は身近だった。

けれど、当時の僕はコーヒーが好きではなかった。黒くただただ苦いだけの飲み物。それがコーヒーに対して思っていたこと。

そんな僕にも転機が訪れる。
それは高校に入学してすぐのこと。

家から近所、といっても自転車で15分はかかるところに(田舎なら近所)、自家焙煎のコーヒー屋さんができたのだ。

それまでは、どこに行くにしても家族や友人がいて、1人でお店に行くという経験はほとんどなかった。

でも、ある日、僕は勇気を出してお店に行った。たしか、部活帰りで、学生服のままで。

いつも通う富山のコーヒー屋さんの店内写真

「カランカラン」とベルの音が鳴り、お店の方が2人で出迎えてくれる。

お店を入ってすぐ右は焙煎スペースになっていて、今も焙煎中みたいで「シャラシャラシャラシャラ」と音を立てながら、機械の中をコーヒー豆が回っている。

その香ばしくいい香りを嗅いでいると、「お好きなところどうぞ」と言われて、僕は窓際のカウンター席を選ぶ。

カウンターに置かれたメニューを眺める。ブレンド、グアテマラ、コロンビア、マンデリンなどいろいろ書いてあるが、僕には何がなんだかさっぱりわからない。

当然である。それまでコーヒーをほとんど飲んだことのない、ただの高校1年生なのだから。

コーナーカウンターの写真

お店の方に「決まりましたか~?」と聞かれてもわからないから、素直にコーヒーをほとんど飲んだことがないこと、ここには初めて来たことを伝えると、「じゃあまずはブレンドを飲んでみましょう」と言うので、お店の名前が付いているブレンドを頼んだ。

しばらくすると、キッチンの方からコーヒーのいい匂いがフワリと漂ってくる。そして、今淹れたばかりのコーヒーが僕の前に運ばれてくる。

白い陶器のカップに入った黒い飲み物。

僕はやっぱり、家で両親が飲んでいるコーヒーや、自販機で何となく買って一口飲んで諦めたブラックコーヒーの味を想像する。

ここまで来たのだから……と覚悟を決めて、コーヒーを一口啜ってみる。

えっ……!あれだけ苦いと思っていたコーヒーが苦くない。いや、苦味はあるけれど、それ以上に甘みが感じられる。

僕はしばし呆然としていたけれど、その後は夢中になってコーヒーを飲み干してしまった。

再びお店の方が声をかけてくれる。オープンしたばかりのお店で、学生服を来た体のデカい高校生が、1人で来てコーヒーを飲んでいるのが不思議だったらしい。

僕がコーヒーに憧れていたことや、ミルクや砂糖を入れずにブラックで飲めるコーヒーがこんなにおいしくて感動したことを伝えると、とても喜んでくれた。

それからの僕は、たまの週末に自転車に乗ってお店へ行き、コーヒーを飲んだり豆を買わせてもらったり、コーヒーの淹れ方(ハンドドリップ)のコツを教えてもらったりするようになった。

そして、たまには僕が両親にコーヒーを淹れるようにもなった。

それまで両親は、自家焙煎のコーヒーをほとんど飲んだ試しがなかったらしい。でも、そのおいしさにとても喜んでくれて、その姿を見られるのが僕としても嬉しかった。

高校を卒業してから、ずっと県外にいる今も、帰省するたびにお店に顔を出している。

窓に描かれたコーヒーのイラスト

「カランカラン」となるベルの音も、「おかえり」と言ってくれるお店の方も、僕が初めてお店に足を踏み入れたときと何ひとつ変わらない。

それが僕は嬉しい。たまたまのご縁でつながった人たちと、10年以上経っても変わらずにお互いの関係が続いているのだから。

高校まで暮らしていた富山、大学時代を過ごした愛知、就職してから今もいる東京、どの街にも好きなコーヒー屋さんと人がいる。

おいしいコーヒーがあり、ステキな人がいるお店を見つけるのが僕は得意みたいだ。

喫茶七色|akira

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