夜遅くなった仕事の帰り道、後ろから「ジーコ、ジーコ……」という音が聞こえてきて、なんだろうと思っていたら、僕の横を自転車が通り過ぎていった。
音の正体は自転車のライトで、タイヤに擦れて光るタイプに思わず懐かしさを覚えた。
あれは高校生の頃。授業と部活を終えるとあたりはすっかり暗くなるような毎日で、いつも急ぐように自転車にまたいで学校を飛び出していた。
当時僕が使っていた自転車は自動でライトが着くものではなく、手とか足でライトを押し出して、タイヤの回転で明るくなるようなライトだった。
朝は片側交互の道路を通るけれど、そこは歩道があるわけではなく、自動車とスレスレになったり、用水路に落ちそうな気がして帰り道として使いたくなかった。
帰りに決まって通るのは道幅の広い農道で、日が暮れた後は車も通らなければ街灯もほとんどなく、暗がりの中を進んでいかなければならない。
自動なライトなら、どれだけゆっくり走ろうがライトが暗くはならない。でも、僕のは違う。
漕ぐパワーでライトの明るさが変わるような僕の自転車は、のんびり走ったり、スマホを眺めながら漕ぐこと(危ないから絶対ダメ)など許されるわけがないのだ。
だから、いつも必死こいて自転車を漕ぎながら家へと帰った。
誰も通らない、誰もいない、明かりもないような農道を1台の自転車が猛スピードで駆け抜けていく様子は、遠くから見て神秘的な言い回しをすれば流れ星のようにも見える。しかし現実は、高校生が息を切らしながら、ただただがむしゃらにペダルを漕ぎまくっているだけなのだ。
そんな手動のライトの自転車はいつの間にか姿を消し、どの自転車もライトだけは自動になった。
でも、たまに聞こえる「ジーコ、ジーコ……」という音とともに、僕の横を通り過ぎる自転車を見ると、高校のとき暗闇の農道を全速力で漕いで家まで帰っていたあの日々を思い出す。
喫茶七色|akira