じいちゃんは物を大切にする人だった

祖父から受け継いだ形見の写真

大学に入学し、一人暮らしを初めて日も浅かった頃。

ある日の朝早くにスマホが鳴り、電話に出ると母親から「じいちゃんが死んだから帰ってきなさい」と言われたとき、その場で本当にうろたえた。

そんなことあるはずがないのに、「どうせ冗談でしょ」と自分を無理に偽り、電車を乗り継いでやっとたどり着いた実家の仏間を開けると、そこにじいちゃんの亡骸があった。

身内が亡くなり、自分がお葬式で送る側になるという初めての経験だから、そこで本当に「あ、じいちゃんはもういないんだ」と理解できて、ありえないくらい涙が出てきた。

悲しんでいても、じいちゃんを送り出すための手続きは、自分が知らないところで進んでいき、あっという間にお通夜と告別式を終えて骨になった。

昨日までいた家族がいなくなるという現実はなかなか受け入れられず、じいちゃんが使っていた物が近くにあれば、少しは悲しみが癒えるかもしれないと思ったとき、じいちゃんの腕時計と櫛を見つけた。

じいちゃんが使っていた時計の写真

じいちゃんの腕にはいつもこの腕時計が巻かれていた。

朝早くから畑に出て、汗をかきながら土をいじったり、野菜を収穫する時。新聞を読んでいる時。3時のおやつで大福とお茶を味わっている時。パック酒をグラスに並々と注いでおいしそうに飲み干す時。

じいちゃんとこの腕時計はいつも一心同体だった。

めちゃくちゃ高級でもなく、安すぎるというわけでもない。
近所のホームセンターにはレジの後ろに時計コーナーがあったから、そこで見つけて買ってきたのだろう。

じいちゃんの櫛の写真

櫛だってそうだ。

本物か偽物かわからないけれど、べっ甲柄の櫛をいつも専用の革ケースに入れていて、お風呂の後や気になった時にいつもこの櫛で髪をといていた。

じいちゃんは物を増やさずに、いかに長く使うかを考えていた。
高級と安物の間、値段も質もちょうどいい物をいつも見つけてきて、ずっと使っているような人だった。

ばあちゃんに頼んで引き継がせてもらい、今もこの腕時計や櫛を使っている。

じいちゃんが亡くなってからもう10年以上経った。

頭の中に残っている記憶だけでは、いつか忘れてしまうような気がして、少しだけ怖くなる。
でも、この腕時計と櫛がじいちゃんと僕をつなぎ、その記憶を思い出せるきっかけになっている。

じいちゃんが物を大切にする人だからこそ、僕も引き継いだからには大切に使っていきたい。

そして、じいちゃんとの想い出を忘れずにいたい。

喫茶七色|akira

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