高校の頃、僕は陸上競技をしていて、なんとかインターハイ(全国大会)の切符を勝ち取ることができた。
小・中と続けてきた野球はずっと補欠選手だったから、初めて自分の努力が実った気がして誇らしかった。
現に先輩・同級生・後輩関係なく、チームのみんなは喜んでくれて、その姿が僕にとっても嬉しくたまらなかった。
インターハイを間近に控えたある日、壮行会という名の僕を激励する会があり、箱を手渡された。
箱の中を見ると、みんなからのメッセージカードやハチマキが入っている。
それとは別に、緑・青・赤・黄・紫の糸で、彩り豊かに編み込まれたものが出てきた。
僕がそれを手に取ると、マネージャーが「それ、ミサンガっていうの。利き足の足首に結んでおくと勝負事にいいんだって!」と言う。
さっそく足首に結んでみる。
お守りというのがミサンガ本来の目的だろうけれど、僕はアクセサリーのような物を初めて身に着けたような気がする。
それまでの自分より、ミサンガを着けた今の自分のほうが、ほんの少しだけオシャレになったような気がした。
他にも、学生服のズボンの裾からとか、体育で息を切らして下を向くときにミサンガが見えるとき、「大変だったけど、一生懸命に結んだんだからね!」というマネージャーの姿を思い出し、みんなの気持ちが込められたミサンガを身につける点では勇気づけられたし、そういう意味ではお守りだったかもしれない。
結局のところ、全国の壁というのは想像以上に厚く高くて、最初で最後のインターハイはあっという間に予選落ちした。
インターハイの開催県がたまたま隣県だったから、家族だけじゃなく、チームのみんなが応援に来てくれたことが本当に嬉しくありがたく、今でも思い出しては感謝の気持ちが芽生える。
陸上部を引退して高校を卒業し、大学に入ってもしばらくの間、僕の足首には変わらずあのミサンガが結ばれていた。
当時に比べると随分色褪せたし、ところどころの糸がほつれたりしている。
そして、ついにその日が訪れる。
シャワーを浴びている途中、シャンプーを流す間は目を閉じているから気づかなかったけれど、終わって目を開けるとミサンガが切れていた。
ショック!というよりも、今まで何年も着けていたし、やっと切れたんだという気持ちのほうが強かった。
切れたミサンガを拾って眺めると、ふいにあの壮行会のことを思い出す。
ミサンガのことを教えてくれたマネージャー、盛大にインターハイに送り出してくれた同級生、「先輩スゴいっす!」と目を輝かせながら喜んでくれた後輩、みんなの顔や姿が浮かんでくる。
もう何年も前の話だし、みんなそれぞれの人生を歩んでいるんだろうけど、僕にとっては今も大切な想い出であることは間違いないのだ。
でも、いつかマネージャーにはお礼を言いたいなぁとは思っている。
たしか、同級生の中でも早くに結婚して、お子さんも生まれて立派なお母さんでいると人づてに聞いたことがある。
あの時のことを彼女は覚えているだろうか?覚えていなくても別に構わない。僕はずっとそのことを覚えていて、感謝していることを伝えたいだけなのだから。
そういう日が来るかどうかわからないけれど、自分にまた1つやりたいことが増えた。
書くとは思い出すこと。思い出すからこそ、記憶は改めて鮮明になり、前よりも強く残っていく。
喫茶七色|akira