小説、ミステリー、ビジネス、エッセイみたいに本は多種多様なジャンルがあれど、それまでの僕は「日記本」を手に取る機会がほとんどありませんでした。
というのも、日記は本来自分だけのものというか、誰かの生活をのぞき見しているような気がして、日記がイヤというよりも、恥ずかしさのほうが僕を遠ざけていました。
そんなとき、三軒茶屋の本屋Twililightで出会ったのが、ひらいめぐみさんの『踊るように寝て、眠るように食べる』という作品。
「とはいえ日記本か…」と思った自分を叱りたくなるほど、この1冊をきっかけに僕は冒頭の日記本に対するイメージが180度変わってしまいました。そんなひらいさんの作品をぜひ紹介させてください。
書籍のこと
日記のはなし
ひらいめぐみさんの『踊るように寝て、眠るように食べる』は、2023年5月に私家版として送り出された作品。表紙のイラストは、花原史樹さんによるもの。
ひらいさんは作家やライターとして活躍する以外に、たまごシールを20年以上コレクションしているという一面を持っています。
「たまごシール??」と思った方は、ひらいさんの前作『おいしいが聞こえる』もぜひ読んでいただきたい。食べ物あれこれ、おもしろおかしくステキなエッセイなんです。
話を戻して、今作は2022/11/1~2023/3/31までの日記に加えて、モノ・コトをテーマにした6つの書き下ろしエッセイも収録されています。
日記の内容は、毎日の仕事から日々の原稿、食べたものや出会った人たちとのひととき、旅先でのことなどなど。日記ですから、その日のできごとがありのままに。
個人的にはパートナーの朝マック好き具合が、僕と同じような感じでクスッと笑ってしまいました。
日記としてまとめられている期間を含めて今もそうですが、コロナウイルスと私たちの生活ってどうあるべきかという問題は、もう何年もいろんな方が考えていることでしょう。
でも明確なルールはほとんどなくて、それぞれが自分自身で決めたルールに従って歩まざるを得ません。
だから、ひらいさんの日記を読んでいて思ったのは、「毎日の24時間という当たり前に流れる時間のなかで、今この瞬間をみんなが生きてそれぞれの日常がある」ということ。
仕事でのできごと、食事や友人たちとの時間、旅先での出会いもそうですが、日常は自分が思っている以上にいろんなシーンにあふれていることに気づける作品でした。
エッセイのはなし
書き下ろしのエッセイもステキなお話ばかり。
なかでも、「日本に初めて来た日」と「饒舌ないきもの」には特別な感情を抱きました。それぞれ少しご紹介したいと思います。
「日本に初めて来た日」は、初めて日本に来た外国人のつもりになって、いつもの日常を見つめ直してみるお話。
なんでもない日常も、じっくりと味わってみれば、単調じゃなくなっていく。いつもの毎日に飽きたら、飛行機に乗ってどこかに行くのもいいけれど、「飛行機に乗って今日ここへ来た」と思ってみるのも、なかなかおもしろいものです。
『踊るように寝て、眠るように食べる』P144
僕も今の街で暮らし始めてから早5年、憧れの街ではあったけれど、とっくに慣れてしまって、新鮮さはいつの間にか消えていました。でも、消していたのは自分自身であって、もしかしたら見えていない街の景色、いつもの場所も視点を変えれば新鮮に見えてくるかもしれないと思えました。
そして「饒舌ないきもの」は過去のひらいさんが、学校でお世話になった先生に花束を贈るお話。
言葉で説明していると、ときどき、もどかしく感じてしまう。言葉を重ねても、なにかが足りない。なにかが違う。すでにある表現では、自分の感覚とずれている気がしたり、ありのままの感情が伝えきれていないように感じるのだ。そういうときは、言葉を使わないほうがうまく伝えられる。
『踊るように寝て、眠るように食べる』P149
人はなぜ花を贈るのか?について考えさせられ、花を受け取った先生の姿に思わず胸が熱くなり、涙がこみ上げてきました。
6つのエッセイ。どれも心が温かくなり、心を揺さぶられます…本当におすすめです。
書籍の詳細情報
書籍の詳細に関しては、ひらいめぐみさんのBASEページをご覧ください。
また、リトルプレスを扱う本屋さんでもお手に取ることができると思います。
お見かけの際はぜひお手にとってほしい1冊です。