いつもと違う夏

日の明かりで目を覚ますと、「ジージー」とセミが鳴く音が聞こえた。

最近、夏の暑さでセミも土から出てこられないというニュースを見ていたから、セミがいるということにまた夏が来たんだという安心感を覚えた。

今日は休みだったので、駅まで散歩がてらパートナーを送り届ける。家から駅までの道のりには公園や神社があり、大きな木がたくさんそびえ立っている。

そして、姿は見えないけれど、セミたちの鳴き声がこだましていて、2人の話し声が遮られるくらいだった。

パートナーを見送り、駅前のカフェで1時間ほど本を読みながら涼み、さぁ帰ろうとお店を出た帰り道、公園と神社の前に差しかかると音が無くなっていた。

セミの鳴き声が一切聞こえなくなっていた。

さっきまでお互いに耳を澄ませないと声が届かないくらいだったのに。

そこで思い出したのはあのニュースの続きだった。セミが出てこられないだけではなく、出てきたとしても暑さであまり鳴かなくなってしまったそうだ。

まだ朝の9時だというのに、外にいると額が汗ばむくらいに暑い日が続いている。人間はすぐに冷えた場所に行けるけど、セミたちはずっと外の世界で、木にピッタリとくっついている。

そこに容赦なく降り注ぐ夏の強い日差し。そんな過酷な環境にいるセミには、思わず同情もしたくなる。

「◯◯日連続!」「過去最高を更新!」みたいな言葉が夏の暑さを知らせるニュースに並び始めるようになったのは、一体いつからだろう。

毎年毎年、「今年が一番暑い」なんて言い続けて、夏の暑さの極限はどこにあるのか皆目検討もつかない……

これ以上暑くなったら、セミはただの音のしない羽の生えた虫になってしまい、それに寂しさを覚えて夏らしさを求める人間が木につけたスピーカーからセミの鳴き声を流す未来もあり得なくもないように思えた。

そんな未来が来ればセミは楽になれるのだろうか。

いや、でも、きっとセミはそんな未来は望んでないような気がするし、一生懸命に鳴きたいはずなのだろうと勝手に思っている。

セミが鳴く理由を調べてみると、オスがメスを呼ぶための求愛行動なのだそうだ。

セミまで草食系男子になってしまったのかと思ったけど、そもそもセミのエサは木の樹液なので、本来の姿に戻ったといえばそうなのかもと思った自分もバカバカしい。

頭も体も冷やして自分を取り戻さないといけないなと決めた朝だった。

喫茶七色|akira

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