近所のお気に入りのお弁当屋さんに、「閉店のお知らせ」という張り紙を見つけたときは、さすがにショックを隠せなかった。
その張り紙にはこれまでやってきた感謝の気持ちや閉店日時が書かれており、そこで初めて30年以上もお弁当を作り続けていることを知った。
物価高でどこも値上げが当たり前になるなか、多少の値上げはあったが、未だに500円や600円でお腹いっぱいになれるお弁当を食べさせてくれる貴重なお店だった。
お店は老夫婦で営んでおり、おじいちゃんが厨房、おばあちゃんが注文を取ったりお会計をしたりしていた。
おばあちゃんはいつも元気で、「◯◯弁当お待たせ!◯◯円のお預かり!いつもありがとうございます~!」と、マスク越しでも伝わる笑顔で気持ちの良い接客をしてくれていた。
ある日、いつものように唐揚げ弁当を買いに行ったとき、僕は変わったばかりの1000円札を出した。
おばあちゃんは僕が出した1000円札をまじまじと見つめてから、「あらぁ!」と声を出し、描かれている北里柴三郎に「はじめまして~」と挨拶をしていた。
新しい1000円札を両手に持ち、透かしてみたり光で見え方が変わるホログラムを確認したりしながら、嬉しそうに眺めていた。「新札を初めて見たから嬉しいわぁ~」と喜ぶおばあちゃんは、とてもチャーミングでステキだった。
お弁当屋さんは予定どおりに閉店してしまい、今はシャッターが降りている。
もしかしたら、街なかでたまたま買い物をしている姿を見る可能性もあるかもしれないが、どうもお弁当屋さんを辞めたおばあちゃんは見てはいけないような気がしてしまう。
いつもおばあちゃんの笑顔とあたたかいお弁当のセットは、今はもう食べられないけれど、頭の片隅に残しておきたい記憶の1つになっている。
喫茶七色|akira