両親が共働きで、土曜日に出勤で家にいない週末もあった。
そうすると祖父母と僕(弟や妹は部活とか遊びでいたりいなかったり)で、週末のお昼を迎えることになる。
基本的に前日の晩ごはんやさっきの朝ごはんの残り、カップ麺やインスタントラーメン、そばやそうめんを湯がき、ありあわせの昼ごはんが多かった。
けれど、特に理由もなく祖父母が「今日のお昼は出前を頼もうか」と言うときもあった。
出前をしてくれるのは近くのお店で、近所に住んでいる家には必ずと言っていいほど、このお店のメニューが電話の近くなどに置かれていた。
祖父母が手渡してくれたメニューを見る。ラーメンが中心だけど、そばにうどんもあり、定食やオムライスまでやっているので、たしか50種類くらいあるのでなかなか決められない。
いろいろ悩んで、結局落ち着くのは醤油ラーメンで、今から15年以上前で値段は500円だった。
祖父母のどちらかがお店に電話をかけるのだが、どこどこの誰々とは言わない。その昔、祖父母は家の一角で駄菓子屋を営んでいた時期があり、駄菓子屋で名前が通っていた。
だから、電話口では「駄菓子屋ですけどラーメン3つお願いします」と言うだけで、30分もせずにおかもちを手にしたお店の人がやってくるのだ。
届いたラーメンはスープがこぼれないようにラップがしてあり、はがすと湯気がもうもうと上がる。
作ってからすぐ持ってきてくれるので、麺がのびることなく、おいしく味わうことができた。
祖母は決まって「ご飯いる?ラーメンライスにしなきゃ」と言い、いつも僕の分だけのご飯を炊飯器からよそってくれた。
チャーシューやナルト、麺をそれぞれご飯に乗せて、一緒に食べていく。
少しだけスープに浸ったご飯がまたおいしく、1杯じゃ足りずに2杯目をおかわりするときもあった。
食べ終えた後はラーメンどんぶりを洗い、水気を拭いて玄関先に置いておく。そうすると夕方にはなくなっていて、いつの間にか回収されているのだ。
そんな出前も大学進学で実家を離れ、就職で上京をしたことですっかり縁がなくなってしまった。
お店で食べるのもおいしいのだが、出前という特別感。たまにしかないからこそ、味の記憶だけは今もずっと残っている。
祖父母と一緒に食べる、土曜日のお昼だけのラーメン。あれを超える味は出会えそうでなかなか出会えないでいる。
喫茶七色|akira