大切な人がいるから僕は手紙を書く

手紙が好きだ。

連絡手段はいつもLINEばかりだけど、ふとしたときに手紙が書きたくなるから、ペン・便箋・封筒を常備している。

そして、ふと思い出したかのように、つらつらと書いては送っている。

普段の連絡手段といえばLINEばかり。
いつでもどこでも好きなときにメッセージを送れるけど、手紙はどうだろう?

書くための道具を用意する必要があるし、書く時間もかかるし、相手が受け取るまでにも何日か必要だ。

周囲からは「今どき手紙なんて珍しいね」と言われるけど、今だからこそ大切にしたいという想いがある。

手書きで書かれた手紙の文章は、字の上手い下手にかかわらず、書き手にすれば誰かを想い、受け取り手にすれば手書きの温もりが残っている。また、便箋や封筒の手触りもいい。

手紙を書く上で僕にとって欠かせないのが、『りんどう珈琲』(古川誠、クルミド出版)という本だ。

千葉の内房、海が見える竹岡という小さな街で、喫茶店を営むマスターと女子高生のアルバイト、そこに集まるお客さんとの物語が記された小説。

その本の第1話には、このようなフレーズが出てくる。

「手紙を書く相手というのは、その人にとって本当に大事な人だ」

りんどう珈琲/古川誠 P17

初めてこの言葉を目にしたとき、「あっ、やっぱりそうなんだ」と思った。

「手紙を書こうかな」と思うとき、頭に浮かぶのはお世話になっている、なっていた大切な方ばかり。

互いに離れた場所で暮らしているからこそ、手紙を送りたくなる。

手紙は日本だけでなく、たまに海外に送るときもある。

送り先は、アメリカのカリフォルニア州、サンフランシスコから車で2時間以上かかる小さな村で靴屋を営む靴職人だ。

僕は以前、ここに1人で訪ねて、石膏で型取りをした自分だけの革靴を作ってもらったことがある。

手紙には、靴を履きながら過ごす日常のことを綴り、撮った写真を一緒にして送る。

手紙が日本を出てアメリカに着き、最終的に届くまで1か月近くかかる。

そして忘れかけた頃になって、靴職人からの手紙が僕のもとへ届く。

フランクリンさんから送られてきた手紙の写真

今回受け取った手紙には、年齢もあってか靴職人としての仕事を引退し、もっと自然豊かなところに引っ越すことが記されていた。

手紙の最後は「Life is getting more peaceful day by day!」と結ばれており、直訳すると「人生は日ごとに平和になっていく」という意味になる。

遠い異国で暮らす方の近況や今の気持ちを知られるのも、手紙ならではの良さかもしれない。

でも、普段のLINEやメールも決して悪いものではない。

早く伝わることは、その人とのつながりを身近に感じられるから。

それでも僕が手紙を書くのは、早さと手軽さが当たり前だからこそ、たまにはのんびりと、誰かとつながっていることの喜びを感じたいのかもしれない。

「手紙を書くこと」はハードルが高そうだけれど、話すようにペンを走らせると意外と書ける。

「何を書こうかな?」と考えるのではなく、あの人と今目の前で話すように書くことが大切。

それでも書きづらさを感じるときは、便箋じゃなくて一筆箋なら、ひと言添えるような感じでもっと気軽に書けると思う。

受け取るあの人のことを想いながら書く時間は、穏やかな気持ちになれる気がする。

そうして書き上がった手紙に込めた気持ちは、あの人にもきっと届くはず。

伝えたいことがあってもなくても僕は手紙を書く。それは「僕はあなたを忘れていませんよ」という気持ちを示す手段だと思えるから。

喫茶七色|akira

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