必要なのは青い空だった

都内のなかで引っ越しをした。それまでは渋谷まで電車で数分、なんなら歩いてもちょうどいい散歩ができるようなエリアに暮らしていた。

いわば都心ともいえるような環境で、それはそれで便利だった。人が欲しがるような物もなんの苦労もせずにすぐ手に入るし、住んでいる場所を言えば羨ましがる方も多かった。

駅周辺はお店とかビルばかりだけれど、5分も歩けばすぐ住宅密集地で、僕もそのうちの1つのアパートで暮らしていた。

2階建ての2階、他の建物も同じ高さばかりだから見えるのは建物の壁ばかり。見上げれば空も見えるけれど、決して広いとはいえなかった。

引っ越し先は渋谷まで電車で1時間かかる場所だけれど、その分ビルも少なくて住宅も過度に密集しているわけではない。

マンションだから以前よりも視界が開けていて、視界いっぱいの青空を眺められるようになった。

朝焼け、日中の澄んだ青空、夕焼け、吸い込まれるかのような黒い夜空。

1日を通して空はいろんな表情を見せてくれることを僕はすっかりと忘れていた。

空が見づらい暮らしをしていた分、今まで以上に空を眺める時間が増えて、特に精神的な意味で健康になったような気がする。

生活の中にはたくさんの欲望があって、あれこれと手を出すこともあるけれど、意外と何もいらなくて、広い広い空が見られればいいように思えてくる。

もともと田舎で生まれ育っているし、空を見ていると在りし日の自分とつながっているようか感覚になるのは何とも不思議な気持ちだ。

喫茶七色│akira

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