僕が暮らすアパートの部屋にはテレビがないから、スピーカーから音楽を流しながら過ごすことが多い。
好きな音楽をかけたり、知らないプレイリストを流しっぱなしだったりすることが多いけれど、たまにはラジオが聞きたくなる。
聞きたくなる理由もあって、よく行く立ち食いそば屋さんがラジオをかけっぱなしにしており、そばを食べている10分もないくらいの時間で、なぜか異常なくらい「ラジオいいじゃん!」と思うのだ。
また、たまにはドライブがてらレンタカーを借りるときもあって、もちろん音楽を流すけれど、どこかでラジオに切り替えたくなる。
番組表も知らないし、MCとか番組名も初めて聞くものばかりだけれど、話している内容とか流れてくる音楽に、思わぬ気づきや出会いを得られるチャンスもあったりする。
ラジオに関する想い出といえば、自分が中学3年生だった頃にさかのぼる。
地元の新聞にはラジオの番組表も載っていて、日曜日の午前0時から始まるとある番組が気になった。
AMラジオよりもFMラジオのほうが音質が良くて、音楽の番組が多かったから気になっていたのだ。
ラジオといえば、当時からスクール・オブ・ロックくらいは聞いていたけれど、そんなに遅い時間から始まるラジオは聞いたことがなかった。というより、聞けなかった。家族はみんな寝ている時間だし、万が一でも部屋に電気が点いていたら怒られるに決まっているからだ。
じゃあどうしよう?と思ったとき、当時使っていたSONYのウォークマンにはAM/FMラジオの機能があり、イヤホンを挿すだけで地元のラジオを聞くことができた。
お風呂に入って晩ごはんを食べ、テレビを見て宿題を済ませたりしていたら、あっという間に寝る時間がやってきた。
家族には「おやすみ」といって布団に入るけれど、すぐに寝るわけではなく、時間とにらめっこしながら、息をひそめてこっそりと起きていた。
そして、日曜の午前0時。耳に入れていたイヤホンから、初めて聞くMCの声と聞きなじみのない音楽が流れてくる。
前半30分はMCが選んだ今週の音楽、後半30分はゲストのDJや音楽家が選んだ音楽が流れる計60分の番組。
家族みんなが寝静まっているのに、僕は布団をかぶってこっそりとラジオを聞いていて、その間に流れてきた音楽は僕にとってどれも衝撃的だった。
特にディアンジェロのブラウンシュガーは、こんなカッコいい曲があるのか!と思うくらいで、まだまだ子どもだった僕にとって、大人っぽさを感じさせるような音楽ばかりだった。
今流れていた曲とアーティスト名を曲の終わりにMCがサラリと言うものだから、後から聞いてみたい曲は、布団のなかで慌ててメモを取っていた。
そうして僕は同級生たちが聞かないような音楽ばかりを好むようになり、学校では音楽の話で苦労することも増えてしまった。良いのか悪いのかわからないけれど、自分の音楽の好みは、おそらく深夜ラジオをきっかけに形作られたような気がする。
朝早くや昼下がり、夕暮れ、夜のはじまりと真夜中、どの時間帯でもラジオは楽しめる。
すてきな番組や音楽との思いがけない出会いがたくさんある。
運転中や暇なときに、何気なくラジオをぼんやりと聞く時間も最高に贅沢だ。
こっそりと布団の中でラジオを聞き始めた頃は、毎週その夜が楽しみで楽しみで仕方なかった。あのとき、本当に偶然で何気なくあの音楽番組に出会えて良かったなと思う。
当時から15年近く経った今も、その番組は日曜の午前0時になると流れ出す。聞き慣れたMCの声、初めて聞く音楽との出会い、実家に帰るといつも聞きたくなるラジオが僕にはある。
喫茶七色|akira