普段よりも朝早くに起きて向かったのは東京駅。
僕は東海道新幹線に乗って名古屋に向かう。とても大切な用事と会いたい人たちに会いに行くためだ。
どれだけ短い旅行だとしても本は欠かせないので、必ず1冊はカバンに詰めておく。
東京~名古屋は約90分。本を読んでウトウトしているうちに、新幹線はもう豊橋を通過していて、あっという間に名古屋駅に着く。
駅を出ると僕はすぐに地下鉄に乗り換え、終点の藤が丘まで約30分。朝早く起きたから、ここでもウトウトと。
地下鉄といっても、上社~藤が丘は高架なので地上を走る。朝の陽の光が車内に入り込んでオレンジ色のシートを照らす。
そして終点の藤が丘へ。学生時代に住んでいた頃と変わらない風景が懐かしく、少しだけ安心する。
でも、高架下は耐震工事の関係でテナントが解体されており、記憶にあるお店も全部なくなっていた。
驚いているうちに待ち合わせの時間になり、ずっとお世話になっている方が運転する車に乗せてもらう。
これから向かうのはある場所。そう、今日は豊田にある「のうむ」さんが閉店されて、ペアクリームソーダのグラスを引き継がせていただく日なのだ。
幹線道路を抜けて、山を越えて、待ち合わせ場所へ。のうむさんのお孫さんとオーナーさんもやってきた。
お店を初めた当時の話、喫茶店をやることの経営観などなど、オーナーさんの話はすべてが共感できることばかり。
本当に貴重な時間で、感謝の気持ちでいっぱいに。
お店で30年以上使われていたり、倉庫で眠っていたペアクリームソーダのグラスを引き継がせていただいた。
今回の一番の目的は終えたけど、名古屋での時間はまだ始まったばかり。
そのままの足で、学生時代から10年以上お世話になっている喫茶店へ。
ママさんや常連さんたちと、最近のことから昔のことまで遡っていろんな話を。
時間はあっという間に過ぎてしまうもので、名残惜しさを感じつつ、今度は別の方と夜ご飯を一緒に食べてから、今日の宿がある栄に戻る。
サウナが目的だし安いから、1人で名古屋に行くときはいつもカプセルホテルに泊まる。
僕は身長が187cmあるけれど、カプセルは意外と狭さを感じずに快適に寝ることができる。
明日もあるので、夜ふかしはせずにさっさと寝てしまおう。
次の日。
名古屋の夏は朝から厳しい暑さで、僕はさっさと地下に逃げ込む。
栄も名古屋駅と同じように、地下街がアリの巣のように広がっており、暑さをしのげるから助かる。
今日も地下鉄に乗って藤が丘に向かう。今回乗るのはリニモだ。
リニモは2005年の愛・地球博を機に作られた自動運転のリニアモーターカーだ。
最近だと愛・地球博記念公園にジブリパークができたから、乗る人も増えてジワジワ盛り上がっているらしい。
普通の電車が曲がれないほどの急なカーブも曲がっていく。
乗務員はいるけれど、ほとんど運転することはなく、基本的に自動運転。
駅は地上から15mの高さにあるので景色も良い。
開通からもう20年近いのに近未来感は今も変わらない気がする。
会いたかった人との時間も過ごせたから、あとは東京に帰ろう。
でも、まだ寄りたい場所がある。それが藤が丘にあるいつもの古書店だ。
店内には約4万冊の古書が並ぶ。
ここも学生時代からずっと通っている。当時はバイト代のほとんどを注ぎ込みながら、僕は読書の魅力にどっぷりと浸かるようになった。
店主はもうすぐ90歳になる。あとどれだけやれるかわからないと言うけれど、ご自身の気力や体力が続く限り、お店は残るのだろう。
時間をかけて数冊の古書を選び、地下鉄に乗って名古屋駅へと向かう。
切符も買ってあとは帰るだけ。やはり名古屋旅の締めは、新幹線ホームにある立ち食いきしめん「住よし」に限る。
毎回食べるのが「かき揚げきしめん」だ。
小エビの入った香ばしいかき揚げに、たっぷりのかつお節と、きしめんのツルツルとしたのど越し。汁もそこまで濃くないので飲み干せる。
僕にとって「住よし」は、名古屋に行くときに外せない場所の1つであり、ここに寄らずして帰るのはもったいない。
浜名湖や富士山、お茶畑に工業地帯や川などの景色が楽しめるから、東海道新幹線では2列シートの窓側E席を取りたいところ。
カメラで景色を撮ったり、本を読んだりしていたら、新幹線は東京に入っていた。
グラスも割れずに無事に東京まで持って帰ることができた。
知る人からしたら、ペアクリームソーダのグラスはある意味危険物。
割れたら終わってしまう危うさ。
引き継いだからには大切に使っていこう。
35年の歴史に幕を閉じた「のうむ」さんとの今回のご縁には感謝しかありません。
次はいつ名古屋に行こうかな。大切な人たちにまた会いたいな。そう思いながら家路につくのでした。
喫茶七色|akira