コロナ禍の喫茶店で起きた禁酒法時代のような話

いつも行く喫茶店はコーヒー以外にお酒も出してて、常連さんはお酒を飲みに喫茶店に来るような方ばかりです。

コロナの猛威が凄まじく、誰もがどうしていいか分からなかった頃、喫茶店を含める飲食店は営業自体ができなかったり、お酒の提供が禁じられたりしていました。

ある日、いつもの常連さんと僕、それにママさんの3人だった時のこと。お酒の提供が禁止されてたので、常連さんは仕方なくアイスコーヒーを頼んで飲んでいる様子だったんですが、何杯も飲んで顔も少しずつ赤くなっていたんですよね笑。

そもそもアイスコーヒーって何杯も飲まないし、何よりどうして顔が赤くなってるんだよ笑!と思った僕は、「◯◯さん、そのアイスコーヒーってもしかして…お…?」まで言いかけた時、常連さんは口に人差し指を当てたポーズで僕は察しました。

常連さんがおいしく飲んでいたのは、ただのアイスコーヒーじゃなくて、お店の焼酎入りだったんです。
まさに闇アイスコーヒー。

そういう行政的なルール?からすればアウトなんでしょうけれど、その時お店にいた三人だけの秘密だとしたら、まぁ別にそれはそれって感じです。いちいち口外する必要もないし、そんな正義マンを演じるのは逆に無粋でつまらないかもしれない。

別のある日、その常連さんにすすめられて、僕も闇アイスコーヒーをごちそうになりました。これで僕も共犯者というわけですが、焼酎のアイスコーヒー割り、想像以上においしかったんです。

アイスコーヒーをお酒として飲むのなら、コーヒー豆を焼酎に漬け込むコーヒー焼酎か、ウォッカやラムが良いんじゃないかと思ってたんですが、焼酎の甘みとコクにアイスコーヒーの深い苦味が想像以上に合うんです。

しかも、ガムシロップで少し甘みをつけてやると、もっとコクが深くなり、味わいも罪もさらに深い1杯に笑。

良さに一度気づいてしまうと、人はくせになるもので、どうしても飲みたい時は「例の」といかにも常連という感じで注文していました。規制がない今となっては、その常連さんにちなんで、「◯◯ちゃんスペシャル」と注文しています。

コロナは今も続いてますけれど、特に初期の頃はまさに現代版の禁酒法時代だなと思いました。だって、お酒=悪で、どの飲食店さんもお酒を否応なしに提供できなくなりましたから。

今となっては過去の笑い話ですが、コロナでお酒を禁じられたけど、どうにかしてお店でお酒を飲みたかった方って、一定数いたんじゃないかと思います。

そうしたなかで生まれたお店と常連さんとの秘密。僕は決して悪いと思いませんでした。あれだけ通って慣れ親しんだお店で、新しい秘密を作れる機会ってそんなに多くないからです。

だから、あの闇アイスコーヒーは、お酒をアイスコーヒーと偽るために生まれた、仕方のない秘密の裏メニューだったんです。でも、その仕方なさから生まれた味に虜になる人(僕)もいるわけでして。

コロナ初期の大変さも苦しさも、やるせない諦めや怒りも、あの闇アイスコーヒー改め、◯◯ちゃんスペシャルが全部笑い話に変えてくれるのは、「少しずつでも前に進むしかないんだよ」と教えてくれるかのように今は思えるんです。

喫茶七色|akira

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